「暮らしと環境に役立つエネルギー」

(司会)
  それではコンビさんから、環境保護に一生を捧げる決意をしたきっかけから、お話いただけますか?

(コンビ氏)
  非常に若い頃の思い出にさかのぼります。父親が石油採掘の地質学を研究していたこともあり、石油採掘現場を求めて二年ごとに世界 のいろいろな国を移り住んでいました。アフリカのガボンにもいましたし、それから米国、カナダへ。そういった石油採掘地を回り、自然に密接に接する育ち方 をしました。その中から、この地球というものに興味を持ち、地球は守っていかねばならないものという認識を得ました。
  私は当時、まだ小さな少年でしたが、よく乗る飛行機の上から見て、地球というのは何て小さなものなんだろうと実感しました。それ から、例えばアフリカのジャングルといったような自然環境の中に行くことも多くて、そういうところから、自然環境というものに興味を持つようになりまし た。
  では、原子力とどのように出合ったかということですが、父がそもそもエネルギー分野の人間で、石油を探していろいろな所を移り歩 き、どのようにしてエネルギーをつくっていくのかという仕事をしていたので、まず父から、石油はエネルギーを生み出す基になるんだ、石油は非常に大事なん だということを教わりました。父が最初に教えてくれたんです
  しかも、そのエネルギー源というのは、限られたものであるということも。一つの所で石油が枯渇し、もうこれ以上採れないというこ とになれば、また新しい石油のソースを求めて動いて行くことが必要だったわけです。石油は重要であるけれども、いずれはなくなるものであり、それに代わる 代替的なエネルギーを求めていかねばならないこと。そして、それが原子力であり、ウランは量としても石油よりもずっと豊富に地球に存在する、そういったこ とも父が教えてくれました。
ですから、科学者として育った暁には、環境を守り、なおかつ、エネルギーをつくり出すという、この両軸に立つような科学者になるというのは、非常に自然な 生い立ちであったわけです。

(司会)
  山岡先生が生涯の仕事として放射線健康科学を選ばれたきっかけは。出合いのようなとこからお話ください。

(山岡氏)
  日本には広島・長崎への原子爆弾投下という悲惨な歴史があります。唯一の被爆国ということもあり、日本国民として、すごく宿命的 なものを感じたというのが一つです。少量放射線の健康影響については未解明な部分も多く、国際的な関心が高いことも理由です。さらに、例えば鳥取県の三朝 ラドン温泉は「不老長寿の湯」ともいわれ、昔から湯治に利用されてきましたが、そのメカニズム解明は十分でなく、ぜひ研究したいと思ったのです。

(司会)
  放射線は宇宙からも地中からも人体からも出ているということは、我々もおぼろげに知ってはいるのですけど、自然界の放射線につい てお話いただけますか。

(山岡氏)
  自然放射線の一人当たりの年間平均被ばく線量は日本で1.5ミリシーベルト、世界で2.4ミリシーベルトとなります。三朝温泉地 区の方は、全国平均の約3倍のラドン濃度の中で、また、中国広東省のある地区の方は約3倍の自然放射線の中で、それぞれ生活しています。疫学調査の結果、 いずれの地区でも、がんによる死亡率が低いことが報告され、議論を呼んでいます。

(司会)
  コンビさんは世界を回られていますが、こういった具体的なお話を2、3聞かせていただけますか?

(コンビ氏)
  この放射線という物は、宇宙の始まりからずっと存在します。宇宙のどこにも存在するものであります。生命が地球上に誕生した当時 の自然放射線量は現在の2倍でした。それ以来、私たちは放射線に適応して生存してきたことが分かります。
  事実、今も私たちは常に、この放射線を受けているのです。まず地球の外、宇宙からやってきた放射線。それから「地表の放射」と呼 ばれる、地球の表面からの放射線もあります。
  この自然放射線量は地域によって異なります。私はいろんな所に行く際、必ず小さな携帯測定器を持って歩いています。毎時約0.1 マイクロシーベルが平均値ですが、私がブラジルのガラパリ海岸で測定したら毎時40マイクロシーベルトでした。実に400倍です。
  19世紀末に放射線が発見されるずっと前から、アマゾンに住むインディオの人たちが、このガラパリの海岸にやってきて、病気を治 すのに利用していたそうです。今でもガラパリの町は、「健康にいい場所である」ということで知られ、観光局のHPでも、「ガラパリは健康にいい町だ」とい うタイトルで紹介がされているぐらいです。ブラジル中から人々がこのガラパリにやって来て、この地特有の、日本で言うと温泉みたいなもので保養しているの です。決して砂漠ではありません。8万人もの人が住む大きな町です。
Children playing on the radioactive beach of Guarapari

Children playing on the highly radioactive thorium sand beach of Guarapari in Brazil (c) Photo Environmentalists For Nuclear Energy

  そのビーチですが、健康にいいのは、黒い砂がある所です。この黒い砂にトリウムが豊富に含まれ ているのです。私もビーチの黒い砂と白い砂のサンプルを採ってきて分析してみましたが、黒い砂の方にトリウムが豊富に含まれていました。
  ガラパリだけではなくて、アイルランドのラムサ、インドのケララ、そういった所においても、今私が申し上げたのと同様の状況が見 られます。ラジウムはラムサ、そしてトリウムはケララで豊富に検出されています。
  放射線は、そういった特殊な場所だけにあるのではなくて、どこにも存在します。私は飛行機に乗って日本に来ましたが、飛行機の中 で常に、携帯測定器で測ってみましたら、5ミリマイクロシーベルトまで上がりました。
  いろんな場所を私は旅してきて分かるのですが、この放射線というのは、場所によって変化します。一つの場所から別の所に行くと、 随分と線量が上がったりすることがあります。それから高度に非常に影響されます。高くなれば高くなるほど放射は高くなります。2000メートル上がるたび に2倍上がっていきます。

(山岡氏)
  ガラパリはお話の通りで、トリウム、いわゆるモナザイト(モナザ石)がたくさんあります。日本では、それをトロン温泉に利用して います。国連科学委員会によりますと、世界でだいたい年間2.4ミリシーベルト。ガラパリはだいたい10ミリシーベルトで、やはり高いということを補って おきたいと思います。それと、さっき申しましたように、特に中国なんかは、放射線量が高いというところで疫学調査もされています。癌の抑制につながってい るという研究も報告されています。

(司会)
  低線量放射線の実際の活用例について教えてください。

(山岡氏)
  (岡山大病院・三朝医療センターのラドン温泉療法を図示しながら)三朝ラドン高濃度熱気浴室のラドン濃度は2080ベクレル/ ㎥、バドガスタイン坑道は166500ベクレル/㎥。治療は3~4週間、隔日で1日1回40分、ラドンを吸入していただく方法でやっています。12回治療 を受けますと、被爆量は三朝の場合、7×(10マイナス2乗)ミリシーベルト。バドガスタインは5ミリシーベルト。これは年間に一般の人が受ける放射線量 の約2倍です。
Radon treatment at Misasa Hospital in JapanRadon treatment in Misasa Hospital (Japan) 2005 - (c) Photo Dr Yamaoka
  適応症は、気管支喘息などの呼吸器疾患、変形性関節症などの疼痛性疾患、肝臓疾患などの消化器疾患、糖尿病などの慢性退行性疾患 など数十種類に及びます。ラドン温泉が「薬湯」ともいわれる所以です。

(コンビ氏)
  効果はどれぐらいで表れるものでしょうか?1クール終わったら?それともすぐ?

(山岡氏)
  効果はすぐ出ますが4週間で飽和します。

(コンビ氏)
  飽和するから、そこでとりあえず終わりということになるわけですね。

(山岡氏)
  そうです。3~4週間で退院していただきます。

(コンビ氏)
  効果というのはずっと永続しますか?

(山岡氏)
  緩和作用なのです。緩和するだけで、治ることはないです。例えば一月治療しますと、一月ぐらいしか効きません。また元の状態に戻 ります。

(コンビ氏)
  モンタナ、アメリカのかつての金鉱があった所なんかでも、老人向けの治療として放射線の治療をやっているので、似ているなあと 思って聞いていました。
  私は山岡先生がお話された放射線の効果について、私もその通りだと思います。確かに広島に落ちた原爆のように非常に線量の高い放 射線というのは本当に危険だし避けないといけないと思いますが、低線量のものは、かえって健康にいいと思うのです。

(司会)
  コンビ先生は、パリに“ラドン”の自宅を建てられているそうですね。

(コンビ氏)
  私は二年前に結婚して子どもが生まれ、前の家が手狭になりまして今、新しい家をパリに建てています。その家が、いわゆる「ラドン リッチハウス」として、世界初の試作品になるのではないかと思うような面白い仕組みをもっています。ラドンを吸入するパイプを家中に張り巡らせた家で、パ イプ自体は16ミリの径で小さいのですが、長さは100メートルくらいあり、それが地中から散逸したラドンを家の中に取り込む仕組みになっています。 100メートルのパイプには20センチごとに小さな穴を空け、一方の先にエアポンプを接続して、減圧するとラドンが吸収されます。地中に存在するラドンを そのようにしてパイプに吸収し、家の中に排出するので、非常にラドンリッチな家になるという、プロトタイプの家を造っています。

(山岡氏)
  日本でも、家庭用のラドン風呂というのが普及しつつあります。ウランとかトリウムを含んでいるものを加工し、家庭の浴槽のお湯の 中に入れて使っています。
  さっきコンビ先生が仰っていたように、低線量のある領域は有益なプラスの効果がある。ベネフィットですね。でも、それを大きく超 えると有害になるということですが、私たちはこの有益な部分に注目しています。

(司会)
  有害なものも人間の管理によって人類の幸せに貢献できるのだということを、コンビさんはやっておられると思うのですが、コンビさ んご自身の活動をお話いただけますか?

(コンビ氏)
  私の行っている環境保護活動というのは、放射線だけではなくて、もっとよりよい健康をという全体的な活動です。いわゆる予防的な いろいろな活動です。禁煙とか、よりよい健康を目指すという意味での環境活動を行っています。よりよい健康を取り戻すことによって免疫機能を高める。さま ざまな疾病であるとか、いろいろな外からの攻撃に対して体が抵抗性を持つように、というような活動です。その意味では、放射線に対してもということです が、放射線だけではないのです。
  私は英語のタイトルで「Maximizing Immunity」という本を書いておりまして、その意図は免疫力を最大限に活用する、強化するということであります。それはさまざまな免疫からくる疾患 に関する問題とか、そういったものの研究成果を用いて、要はいかにして免疫力を高めるかということで、その中で提案している一つの方法が自然食品、火を通 していない生の食品を食べることです。それによって抗酸化作用を促進する、亢進することができる。そういったことを本の中で提案しています。
  エイズウイルスを発見されたモンテニュー博士が同じようなことを主張されています。この分野からは15年くらい離れておられまし たが、またこういう話に戻ってこられ、博士が「私もコンビの提案のとおりだと思います」ということでお互い話をして、いい友人になっています。

(司会)
  まさに、山岡先生のやっておられる抗酸化ですね。

(山岡氏)
  先ほど微量の放射線が体にいいと申しましたが、じゃ、具体的に何がいいかをお話します。一つには、抗酸化機能を高めるからです。 少量の酸化ストレスとなる低線量放射線(おおむね0.2シーベルト以下)を生体に与えると、生体内の活性酸素が過剰にならないよう制御する働きが高まるの です。他方、生活習慣病の約9割は活性酸素に由来します。このため、生活習慣病の抑制、さらに老化の防止につながり、健康長寿が期待されています。一層の メカニズムの解明を、例えば、ラドン療法の臨床研究などを通じて進めているところです。
  それからもう一つ、コンビ先生がお話された通りでしてね、放射線以外にもいろんな酸化ストレスがあります。食べ物なんかもそうで すね。それも暴飲暴食などをしますと、やはり体によくない。これも酸化ストレスです。これが少量になりますと、むしろ体にいいと、逆を考えればよいわけで す。たくさんの酸化ストレスは体に悪いけど少量の酸化ストレスは体にいいのです。酸化ストレスの一つに放射線があります。それからマイナスイオンも同じメ カニズムです。生活環境の中で適度な緊張も体にはいい。精神的緊張です。そういったものを含めて総合的に考えることが必要です。

(司会)
  医療、環境、それぞれお立場はありますが、かなり共通したものを感じます。

(司会)
  コンビさん、原子力発電についてお話ください。

(コンビ氏)
  人間が人工的な放射線を利用するに至った二つの大きな実用例があります。一つは山岡先生がご専門の医療面での利用で、二つ目は原 子力発電によってエネルギーを作り出すことです。この二つの力は、この20年で人類がどちらも作り出すのに成功してきた力であると思います。
  私は環境活動家ですので、原子力がこういった民生面での利用ではなく、もし軍用に使われるのであれば、私は本当にそれに反対しま す。もし爆弾などに使われるのであれば絶対に反対ですが、民生面での利用は進めるべきだと考えています。民生面での利用というのは、人間に対してクリーン でしかも安全な利用であるということです。
  原子力発電所におきまして、どれぐらいの放射線を人が受けるかということですが、その周りに住んでいる人も、そこで働いている人 も、その原子力発電所から出る放射線を受けるレベルは、本当に低いレベルで、先ほど来、私が言っております「『健康にいいだろう』と思われるレベル」程度 よりもまだ低いぐらいなのです。本当に微量、無視してもいいぐらいと思っています。
  ブラジルのガラパリのビーチで測られた放射線のレベルを、原子力発電所に持っていけば、原子力発電所内で制限されているレベルの 放射線が、その海岸からは実は出ているのです。例えばフランスなんかでも、原子力発電所のフェンス近くに住んでいる人たちの放射線の被爆量が、いわゆる自 然に存在している放射線レベルよりどれぐらい上がったかというと、0.1%だけ上がったに過ぎないということです。それに対して、例えばフランスの西の方 にあるブルターニュ、リゾート地でグラナイトが豊富にある所ですが、そこで一日か二日バカンスでもすれば、とんでもない量、原子力発電所内で制限されてい るぐらいの量の放射線を浴びることになるわけです。

(山岡氏)
  これは日本の法律を示しています。一つは放射線、もう一つはSO2。これが自然放射線、自然のバックグラウンドで、これが許容 値。これが実際の軽水炉の実測値。日本の環境は基準値を超えている場合がある。日本では、例えば、工場などからの大気汚染物質と、原子力施設からの放射線 を、それぞれの規制値に対する実際値の比で比べると、後者が数けた低いことが分かっています。それだけ原子力発電所での放射線の管理は厳重にされていると いうことです。

(山岡氏)
  これは日本の癌死の原因を示しています。食べ物ですね。タバコ、ここに放射線はありません。

(司会)
  通常の運転管理だけでなく、原子力発電所の事故の場合はどうなのかについて伺いたい。

(コンビ氏)
  先ほどお話したのは通常運転の際の照射量は本当に低くて、取るに足らないということでしたが、事故の際の放射レベルがどうなるか ということに関しましては、事故を起こした原子炉の型によって違うわけです。
  例えばチェルノブイリ原発事故の時の原子炉は、格納容器の無い原子炉であったので、漏れてしまった放射線が閉じ込められることな く、そのまま周りの大気の中に放出されました。チェルノブイリの場合は、格納容器がなかったことが一番の原因。もう一点は、非常に燃え易い黒鉛(炭素=グ ラファイト)のような材料が使われていたこと。600トンもの黒鉛(炭素)を使っていたため、非常に炎が高く出る火災を起こしました。通常は燃料を送る配 管に乗って空気が送られ、その空気がさらに火を大きくしてしまい、非常に炎が高くまで上がるような火災が数週間続きました。そして、その火事に乗って、放 射性物質を含んだ煙が数週間の間、付近に噴出してしまったことが、チェルノブイリの悲劇であったのです。
  しかしながら、現在フランスでも日本でも設置されているような原子力発電所というのは、1メートルもの厚さの非常に堅固な強化コ ンクリートや数センチの鋼鉄製の格納容器があるというのがまず第一点。爆弾が落ちても核シェルターになるくらいの堅さです。さらには、いわゆる軽水炉型の 発電所においては、黒鉛(炭素)は使っていないということ。原子炉に使われている材料は燃える可能性のあるものがなく、コンクリートとか鉄という基本的に 燃えないものです。水も蒸散する性質があって燃えることはない。
  また、最悪の場合、すなわち原子炉の溶融が起こった場合でも、さまざまな溶融物が格納容器の中に閉じ込められるのですから非常に 安全にできているのです。
  実はチェルノブイリのような事故が米国のスリーマイル島でも起こりました。原子炉の制御が利かない状態になって暴走したことによ る事故で、基本的なところは一緒だったのです。しかもオペレーターが間違ったボタンを押してしまった。事故を抑えようとしたのに、逆に悪化させる方向にボ タン作用が働いたわけです。これも加圧式の軽水炉で、黒鉛(炭素)は使っていませんでした。従いまして、同じような現象が起こったのですが、誰一人として 死亡した人はいなかった。その時、スリーマイル島の原子炉から放出され大気に出てしまった原子力の放射線レベルは、チェルノブイリに比べて1/100万で した。放射線による一般住民の影響はなかったということです。
  もちろんこれを防ぐ安全機構があることが大事ですが、最悪の事態が起こったとしても、おそらくスリーマイル島と同じような状況で ある日本やフランスにおいては、チェルノブイルのようなケースであっても、放射線の一般住民への影響を防ぐことができると思いますね。

(山岡氏)
  ちょっと付け加えさせてください。日本の原子力施設には、多重防護が施されています。さらに、事故を起こさないために、ヒューマ ンエラーについてもかなり研究されています。物質的なものと精神的なものですね。発電所で働く人の精神的な面もしっかり教育して、事故が二度と起こらな い、起こさせないというようなシステムを、少なくとも日本はとっています。

(コンビ氏)
  そうですね。でも、もちろん事故が起こらないのが一番ですが、もし、万が一起こっても、その影響というのは本当に最小限に食い止 められるようになっているのではないでしょうか。

(山岡氏)
  お話のとおりです。

(司会)
  最後に、我々の生活にはもう切っても切り離せない放射線の活用や将来性について、お二人の立場からお話いただけますか? 

(山岡氏)
  放射線はすでに医療分野でも検査、診断、治療に広く活用され、さらなる応用が期待されています。それから、さっきも申しましたよ うに、この低線量放射線を含めて、環境にはいろいろな酸化ストレスがあります。例えばウォーキング、それからマイナスイオン。今日本ではマイナスイオンが 発生しないエアコンは買わないくらい、一生懸命力入れています。いずれも酸化ストレスからきているということで、健康を促すためには、こういった少量の酸 化ストレスを有効に活用していただきたい。ラドンに限らず、そういったものを規制の範囲内で有効に活用し、生活習慣病の予防と治療、ヘルスプロモーション への応用の可能性について、リスクも含め、研究を発展させたいと思います。放射線は自然環境、我々の生活している環境にいくらでもあるのだから、それをむ しろ積極的に活用して、健康につなげていただきたい、そういう研究をしたいと思います。

(コンビ氏)
  そうですね、医療関係の放射線の利用については、山岡先生のお話のとおりで、さすがご専門であるという風にお聞きいたしました。 今、我々はいわゆる「原子力ルネサンス」と呼ばれる時代に入っているのではないでしょうか。新しい考え方の新しい方法による原子力の利用ということが高 まってきていると思います。この面についてもやはり研究が重要であり、山岡先生のような研究をぜひとも拡充していただきたいと思っております。
  さらに私が思いますのは、民生用の利用ではなくて、軍事用の利用をされた場合、これは本当に厳しく禁止しないといけないというこ とです。IAEAによるイランや北朝鮮における核査察なども行われていますが、私は不十分だと思います。真剣さが足りない。もっと強化しないといけないと いうぐらいに思います。
  逆に、民生用にエネルギーとして原子力を利用することは、もっともっと奨励し、強化していかなければならないと思っています。そ の一点の理由は、石油の価格が今どんどん上がっていますが、価格が上がるのが一番問題なのではなくて、石油の埋蔵量そのものの限界が見えているということ です。従って、それに替わる代替エネルギー源を確保しないといけないという意味においては、本当にその通りなのです。
  現在、我々の近代文明の中において一番クリーンで安全な代替エネルギーを考えた場合、やはり私は原子力がその答えではないかと思 います。原子力以外に再生可能な代替エネルギー源はありますが、まだまだ原子力に比べてエネルギー効率が悪い。生み出せたとしても、まだ非常に低いレベル のエネルギーしか生み出せない状態にありますので、そういう意味では、まだ成熟していません。ですからやはり、原子力というのは絶対必要だと思います。
  私は「二重の危機」と呼んでいます。一つは石油が枯渇するという危機。それから環境の面での危機です。石油など化石燃料を燃焼さ せることによってニ酸化炭素が大気に放出され、それが大気の化学構成を変えている、そういった意味での危機ですが、それを防ぐという意味でも原子力が必要 であります。
  そのエネルギー面での提案なのですが、現在ある原子炉は存続、運営した上で、機能性、安全性が向上した最新式の原子炉をやはり建 設するべきではないかと思っています。それについては、一つ日本が主導的な役割を果たしている高温ガス炉(HTTR)があります。これは非常によい世界に 向かってのプロトタイプになるものです。特に途上国に向かって出すべきではないかと思っております。というのは、事故が起こっても、先ほどの安全性がさら に向上した、核の暴走事故を安全に防げるという内在的なメカニズムがより高い原子炉です。また、HTTRは途上国に特にいいということを申し上げました が、途上国だけではなくて日本のような先進国にも非常に有用であると思います。この原子炉は水素を生産できるのです。水素を燃料にした自動車が開発されて いると聞いていますが、現在の交通環境や燃料問題の解決に、将来HTTRというのは非常に良いと思います。
  それと、「もんじゅ」などに代表される、高速中性子を使った高速増殖炉、これもやはり私は一つの追求すべき可能性であると思いま す。そこにおいては、濃縮されたウランは自然のウランに対比して50倍~100倍ものエネルギーを生み出せる可能性がある、非常に効率のいい炉であると思 います。これらは今、私たちの周りにあるクリーンで持続可能なエネルギー源です。いったん開発されれば、何千年も使うことができるようなものですので、是 非ともこの新しい原子炉を建設してほしいと思います。建設し、それをずっと運営していくということも、私たちの文明を今後も存続させていく方法であると思 います。

(司会)
  コンビさん。環境主義者のムーアさん、ラブロックさんの動きと、EFNについて教えてください。

(コンビ氏)
  私が今いろいろと申し上げましたことは、私の名前だけではなくて、私が所属します組織EFN (Environmentalists For Nuclear Energy=原子力を支持する環境主義者協会)の名前でもって活動しています。私ひとりでやっているわけではないことを申し上げたい。EFNは非常に有 名な環境活動家らもメンバーに含んでおり、8000名の会員がいる、50カ国にまたがる組織です。環境問題に関して世界でも重要な方々、有名な方々が我々 の考え方をサポートしてくれていることは、我々にとって名誉なことだと思っています。
  例えば、イギリス人のジェームズ・ラブロックさんという方は、85歳のご高齢ですが、非常に早く、60年代から、こういった環境 の考え方が世界にない時に、そういった考え方を唱えられた本当に初めての人であるといってもいいと思います。ガイア仮設などを唱えた人であります。それか らもう一人は、モーア(MOORE)さん。この方は60年代~70年代にグリーンピースを創設された時のメンバーの一人ですが最近EFNのメンバーになら れました。地球環境の変化、機構の変化といったようなことが起こることを非常に最初から唱えていらっしゃいました。こういった方々が、私たちの考えを強く 支持していただいていると思います。このモーアという方はカナダでのEFN創設にも携わっていただきました。

(山岡氏)
  コンビさんのお話のとおりだと同感しております。太陽光発電や風力発電などの代替エネルギーにはエネルギー密度が低い、コストが 高い、自然条件に左右されるなどの欠点があり、原子力発電の役割は大きいと考えています。
  それからもう一つは、今日本では特にそうなのですが、安全性についてかなり研究が進み、かつ実践もされていますが、「安心」の面 がなかなかうまくいかないという点があり、おそらく苦心されていると思います。特に日本では他の環境因子に比べ、放射線だけを特別視する傾向が強い。例え ば、いろいろな環境因子について、共通の指標によるリスク比較するなど、科学的に検討した方が良い。感情的になると、将来のエネルギー開発に見誤りが生じ るのではないかと懸念しています。

(コンビ氏)
  そうですね、そのような評価、そしてグローバルにやった方がいいと思います。

本対談は10月31日ホテルグランヴィアにおいて行われました。

対談 暮らしと環境に役立つエネルギー

岡山大医学部教授 山岡 聖典氏
エコロジスト   ブルーノ・コンビ氏


(略歴)
やまおか・きよのり 1955年岡山県生まれ。82年、電力中央研究所入所。東京大客員研究員など兼務。同所上席研究員など経て、99年、岡山大医学部 へ。教授、医学博士・理学博士。日本過酸化脂質・フリーラジカル学会評議員など歴任。同大大学院では放射線健康科学・生体応答解析学に関して研究指導。著 書・講演など多数。

ブルーノ・コンビ 1960年、フランス生まれ。83年、エコール・ポリテクニック卒。原子力工学で学位取得。環境主義者として執筆・講演活動後、健康増 進と環境保護を目的に93年、ブルーノ・コンビ研究所設立。96年、EFN(原子力を支持する環境主義者協会)設立、理事長に就任。99年、フランス原子 力フォーラム広報賞受賞。